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DXに取り組む企業が増えても、事業の成果につながるとは限りません。日本総合研究所の谷崎勝教社長は、原因の一つを「DXそのものを目的にしてしまうこと」だと指摘します。先に決めるべきなのは、どの経営課題を解き、顧客や事業にどんな変化をもたらすのか。その後で、デジタル技術が必要かを考えるという順序です。
この記事では、2024年11月7日公開のCIO Japanインタビューをもとに、DXの普及と成果の数字、効率化と変革の違い、経営層や各責任者の役割、取り組みを見極めるための実務的な問いを整理します。CIO Japanのインタビューで語られた見解と、そこから導ける判断の枠組みを区別して紹介します。
谷崎社長の診断は「DXを目的化している」こと
インタビューで谷崎氏が強調するのは、DXは経営改革や新サービスの実現に使う手段であり、それ自体が経営目的ではないという点です。会社が「DX戦略を作る」「クラウドへ移行する」「デジタル人材を採用する」と掲げても、それだけでは解決すべき問題や成果は明確になりません。
まず問うべきなのは、事業モデルを変えたいのか、働き方を変えたいのか、顧客への提供価値を高めたいのか、といった経営上の課題です。目的を定めたうえで、業務や意思決定のどこを変えるのか、そのためにデジタル技術がどう役立つのかを決めます。谷崎氏の診断は、技術投資が不要という意味ではなく、技術や体制づくりが事業上の狙いから切り離されると、活動が成果に結びつきにくいということです。
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日本企業のDXはどこまで進んでいるのか
インタビューが引用する情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024」では、日本企業の73.7%が何らかの形でDXに取り組んでいるとされています。この数字には、全社戦略に基づく取り組みだけでなく、全社方針のもとで一部部門が進めるものや、個別部門の取り組みも含まれます。したがって「73.7%が全社的な変革を完了した」という意味ではありません。
同記事によると、成果が出ていると答えた企業の割合は、日本では2023年調査で64.3%、米国では比較対象として挙げられた2022年調査で89.0%でした。これは各調査における企業の自己申告であり、監査済みの財務効果を示す数字ではありません。また調査年が異なるため、同じ時点・同一条件で測った国際比較として読むべきではありません。
つまり、DX関連の活動が広がっていることと、企業全体の事業や業績が変わったことは別の話です。インタビューは、日本のDX全体が失敗だと断じるものではなく、活動の広がりだけでは成果や成熟度を測れないことを示す材料として数字を扱っています。
デジタル化とDXは何が違うのか
「DX」という言葉は幅広く使われますが、取り組みの中身を見分けるには、情報をデジタル化すること、デジタル技術で業務を改善すること、事業や組織のあり方を変えることを分けて考えると有効です。
- デジタイゼーション:紙の書類やアナログ情報をデジタル形式にすること。
- デジタライゼーション:デジタルツールを使って、既存の業務プロセスを効率化・改善すること。
- デジタルトランスフォーメーション:デジタルの能力を使って、事業モデル、顧客価値、組織や業務の運営方法を変えること。
この区分は、効率化を軽視するためのものではありません。日常業務の電子化や自動化にも価値があります。ただし、既存の仕事をそのまま速く処理するだけなら、事業の提供価値や意思決定まで変わったとは限りません。改善の範囲に見合った呼び方と成功指標を選ぶことが重要です。
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効率化だけでは変革にならない場合がある
バックオフィス業務の自動化で作業時間を減らすことは、正当な投資目的になり得ます。一方、削減した時間や費用だけを成果とし、顧客体験、サービス品質、売上構造、意思決定の仕方に変化がないなら、企業の変革まで実現したとは言いにくいでしょう。
インタビューで示される対照的な考え方は、旧来のプロセスを単に自動化するのではなく、顧客に届く価値を変えることです。たとえば申請にかかる時間を10日から1日に短縮できれば、顧客の利便性が高まり、状況によっては販売機会の拡大にもつながる可能性があります。ただし、時間短縮だけで売上が増えると決まるわけではありません。顧客の利用行動や事業成果を別途測る必要があります。
効率性、法令対応、サイバーセキュリティ、業務の継続性、エラー削減は、それぞれ単独でも投資を正当化し得る目的です。注意点は、効率化を目的とすることではなく、それだけの成果を「事業全体の変革」と同一視しないことです。
クラウド、人材、コンサルタントが目的の代わりになる
谷崎氏は、コンサルタントのテンプレートに従うだけで、自社が何を実現したいかを決めない進め方に警鐘を鳴らしています。問題はコンサルティング会社やクラウド、デジタル人材の活用そのものではありません。外部の枠組みや目に見える施策が、経営側の意思決定や事業上の責任を置き換えてしまうことです。
- DX部門を設けても、事業上の使命や決定権が定まっていない。
- デジタル人材を採用しても、具体的な課題や実行権限が与えられない。
- クラウドへ移行しても、顧客向けサービスや重要業務の仕組みが変わらない。
- 計画、ダッシュボード、試作品を作っても、誰がどの成果に責任を持つか決まっていない。
こうしたケースでは、活動量は示せても、その活動がどの事業成果を生むのか説明しにくくなります。技術基盤や専門人材が必要な場合でも、導入後に変える業務、サービス、判断を先に定義し、実現を担う事業責任者を明らかにする必要があります。
データドリブン経営には、データを使う意思決定が要る
データ基盤やダッシュボードを導入しただけで、経営がデータドリブンになるわけではありません。谷崎氏の主張の中心は、経営層が実際にデータに基づいて判断したいと考えているかどうかです。情報が提示されても、従来どおり年功や勘、上位者の意向だけで決定されるなら、システムは意思決定を変えていません。
導入前に、どの判断を改善するのか、データを見た後に誰が決定し実行するのかを定めます。実務では、データ定義の共通化、品質と更新頻度、意思決定者の権限、評価や報酬の仕組みも関係します。データが経営者の好みと食い違ったときに、それを検討できるプロセスがあるかも確認すべき点です。
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データの品質が低い、基幹システム間で情報が分断されている、分析結果が現場の業務に間に合わないといった技術上の制約も、成果を妨げます。経営の意思と技術的な土台は二者択一ではなく、目的に沿って両方を整える必要があります。
CIO・CDO・CDIO・CDAOの役割は企業ごとに設計する
谷崎氏は、役職を考えるための実務的な区分として、CIOを社内ITや基幹システム、CDOを技術による新規事業・サービスの創出に関わる役割として説明しています。CDIOはデジタル、イノベーション、変革を組み合わせた役割として使われることがありますが、意味は企業によって異なります。
CDAOは、データ・アナリティクスの戦略、組織や人材、経営陣との連携、データからの事業価値創出を担う役割として紹介されています。記事では、SMBCグループがデータ分析戦略や実行、分析チーム、経営陣との連携、事業価値創出に焦点を当てたCDAO職を設けた例に触れています。
これらは法律や業界全体で統一された職務定義ではなく、会社によって肩書きや権限は異なります。役職を増やすなら、既存のCIOや事業部門との決定権、予算、成果責任を明確にする必要があります。分担が曖昧だと、プラットフォームの重複、データのサイロ化、革新チームと運用部門の対立、実証実験から本番運用への断絶を招くおそれがあります。
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長く続く企業では、既存の事業や業務を成功に導いた仕組みが、組織の慣習や評価制度に深く根付いています。新しいデジタル施策は、予算、権限、地位、慣れた仕事の進め方を揺さぶるため、社員が変化に慎重になることがあります。特に、既存事業の成功を支えた人にとって、従来の方法を変えることは単なる技術更新ではありません。
谷崎氏は、変革を抽象的な議論だけで進めるのではなく、新しいものを作りたい人たちが新規事業やサービスに取り組み、目に見える成果を示すことが組織を動かすと考えています。成功が実証されれば、変化への納得や支援を得やすくなるという見方です。これは同氏の経営上の考え方であり、すべての企業で必ず有効だと証明された公式ではありません。新サービスも顧客に受け入れられない可能性があり、実証実験から規模拡大へ進める運営体制も必要です。
Independent reader supportYour contribution helps us test, update, and keep practical guides available for everyone.自社のDX施策を見極める5つの質問
新しい施策の承認前や、進行中のプロジェクトの見直し時に、次の問いを使うと「技術を導入すること」と「事業を変えること」を区別しやすくなります。
- 解くべき経営課題は何か。「DXを進める」ではなく、顧客の離脱、長い処理時間、採算性、リスクなど具体的な問題を説明できるか。
- 誰にとって何が変わるのか。顧客、従業員、収益、リスク、業務生産性のうち、どの価値がどう変わるのか。
- 導入後に業務や運営モデルをどう変えるのか。プロセス、商品、意思決定権、評価の仕組みのどこを変更するのか。
- なぜデジタル技術が必要なのか。技術が目的達成をどう可能にするのか。技術上の制約やセキュリティ、データ品質への対応はあるか。
- 何をもって成功と判定するのか。開始前の基準値、測定する指標、目標値、測定時期、結果に責任を持つ人が定まっているか。
成功指標は目的に合わせます。顧客体験なら申請完了までの時間、成約率、継続率など、業務改善なら処理時間、エラー率、自動処理率などが候補です。新規事業なら新サービスの売上や利用状況、意思決定の改善なら予測精度や判断から実行までの時間が考えられます。数値はプロジェクトの基準値と目標として設定し、導入したツールの数や研修の受講者数だけを成果の代用にしないことが大切です。
Best Value
計画が実行につながっているか確かめる
- IT部門以外に、事業成果を担う責任者がいる。
- 顧客や商業上の成果が測定可能な形で定義されている。
- 業務、権限、評価、商品など、変える対象が具体的になっている。
- 試行から本番・全社展開へ進む条件と担当者が決まっている。
- 経営陣や現場の管理職が、新しい仕組みやデータを実際の判断に使う。
- 導入後の効果を追い、期待した価値が出なければ修正・中止する仕組みがある。
一方、DX部門の設立、クラウド移行、研修、試作品、ダッシュボードの完成だけを成功として数えているなら、事業成果までのつながりを改めて確認する必要があります。
DXの目的は、成果とリスクに合わせて決める
すべてのデジタル施策が新たな売上や事業モデルを生む必要はありません。法令遵守、サイバー対策、障害への耐性、エラー防止、コスト管理も重要な経営課題です。こうした施策では、規制対応の期限、事故リスク、停止時間、誤処理率、総コストなど、狙いに合った指標を置けばよいでしょう。
目的が明確でも、顧客に使われない、データが不十分、レガシーシステムと接続できない、規制やセキュリティ要件を満たせない、運用担当者がいない、導入費用が価値を上回るといった理由で、取り組みは失敗し得ます。試験段階で終わらないか、日常の業務に定着させられるか、費用と便益を継続的に見直せるかも、計画の一部として扱う必要があります。
DXが空転しているかを判断するとき、見るべきなのはデジタル施策の数ではありません。解く問題、変える業務や価値、技術を選ぶ理由、成果への責任が一つの筋道でつながっているかです。
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